消化器外科手術 合併症0を目指して

熊本大学消化器外科学の取り組み
近年、多くの消化器外科手術で手術死亡が減少した一方で、術後合併症は増加傾向にあります。この理由として、患者の高齢化と併存疾患の増加が挙げられています。手術方法、周術期管理の進歩にもかかわらず合併症が増加しているという事実は、社会環境の変化に応じて今後も手術をさらに進化させていく必要があることを示しています。これまで多くの消化器癌手術において、術後合併症が独立した予後不良因子になることが報告されていることから、合併症の減少と重症化予防が、癌の予後改善の観点から重要な課題と考えます。
 本書では、当科での経験を基に、様々な解析によって得られた合併症の予測・予防・対策に関してまとめたエビデンスを臓器ごとに編集しました
著者略歴
馬場 秀夫
ババ・ヒデオ
熊本大学病院 病院長
熊本大学大学院 消化器外科学 教授
熊本大学医学部卒業。九州大学医学部第二外科入局。アメリカテキサス大学留学、国立病院九州がんセンター消化器外科医長、九州大学大学院助教授、熊本大学大学院消化器外科学教授、副病院長、副研究部長を経て2021年から現職。副学長を兼務する。
吉田 直矢
ヨシダ・ナオヤ
目次

▶︎医療安全

▶食道
食道癌術後の呼吸器合併症のリスク因子は何か?
術前に十分な期間禁煙することは食道切除術後の合併症軽減に貢献する
手術入院時の呼気中のCO濃度は禁煙のウソ発見器であり、高値の症例では食道癌術後の重症合併症が多く発生する
CONUTスコアによる術前の低栄養状態は食道癌の術後合併症と関連する
食道切除術前のサルコペニアは術後の呼吸器合併症を増加させる
食道癌術前化学療法中の体組成の変化は術後合併症と関連する
スクリーニングCTにおける無症候の気道内喀痰像は食道切除術後の肺炎のリスクである
術前治療を有する食道癌手術における術前喀痰監視培養の有用性
E-PASSとoriginal scoring systemを用いて食道癌の術後合併症を予測する
初診時の平均赤血球容積(MCV)高値は食道切除術後の合併症のリスクである
初診時の赤血球分布幅(RDW)高値は食道切除術後の合併症のリスクである
Surgical Apgar Scoreは食道癌術後合併症の予測マーカーである
胸腔鏡下食道切除術は術後合併症の低減に貢献する
胸腔鏡下食道切除術において食道位置は手術難易度、術後合併症と相関する
コントロール不良な糖尿病は開胸食道切除術後のSSIのリスクであるが胸腔鏡下手術ではその影響が緩和される
胸腔鏡手術は食道癌術後1年目の呼吸機能の維持に寄与する
サルページ食道切除術に対する頸部腹部操作先行アプローチは手術時間を短縮する
食道癌手術における胸管切除は術後合併症を増加させ予後改善には寄与しない
三角吻合、大網被覆で食道癌術後の縫合不全と吻合部狭窄を予防する
幽門洞切離・Roux-en Y法再建による胃管挙上性改善の工夫
胃管再建における幽門形成の付加は食道切除1年後の体重減少を抑制する
胸骨後経路胃管再建における肝円索を用いた合併症の少ない胃管瘻造設法
食道癌手術におけるシペレスタットNaの予防投与は術後の呼吸機能悪化を軽減する可能性がある
エノキサパリンによる食道癌術後VTE予防
食道切除術後に合併した縫合不全に対するインナードレナージの有用性
難治性吻合部狭窄に対するリカバリーショット
食道癌術後の再建胃管の潰瘍による瘻孔形成に対する治療
進行食道癌の化学放射線療法中に発生した食道気管瘻に対する食道バイパス術

▶胃
胃癌に対する胃切除術後の短期成績にhospital volumeが与える影響
高齢者胃癌患者においてPNIによる術前の栄養状態は術後合併症および長期予後と関連する
Perirenal Thickness(PT)は腹腔内脂肪量と相関し、胃癌術後短期・長期成績に影響を及ぼす
E-PASSは高齢者、modified E-PASSは非高齢者の胃癌術後合併症の発生を予測する
噴門側胃切除術、Double tract再建後の食事の残胃への生理的流入は術後低栄養を予防する
高齢者における胃癌術後肺炎死を予防する手術戦略
胃癌患者における術前のCONUTスコアは高い長期予後予測能を有する
縦隔内食道残胃吻合後の縫合不全に対するTチューブドレナージと肋間筋弁による修復

▶大腸・腹膜炎ほか
CONUTスコアによる術前の低栄養状態は大腸癌の術後合併症のリスクである
Prognostic Nutritional Index(PNI)低値は大腸癌切除後の重症合併症予測因子である
Advanced lung cancer inflammation indexは大腸癌の術後合併症の予測因子である
肥満は大腸癌に対する腹腔鏡手術の短期成績を悪化させる
大腸組織中の腸内細菌は大腸癌切除後の縫合不全と関連する
StageIV大腸癌における原発切除の必要性~不要な術後合併症を回避するために~
骨盤内の有茎大網充填は骨盤内臓全摘術後の骨盤内感染を減少させる
Persistent descending mesocolon(PDM)症例における腹腔鏡下大腸手術の注意点
ドライボックスを用いた腹腔鏡手術手技トレーニングによる手術成績の向上
術中の酸素摂取量VO2低値は緊急開腹手術の予後不良因子である
大腸穿孔に対する創内持続陰圧洗浄療法を用いた遅延一次閉鎖は創感染を減少させる
感染性腹壁瘢痕ヘルニア修復のための筋膜オンレイパッチの有用

▶肝
術後合併症は肝細胞癌における肝切除術後の早期再発と関連する
周術期におけるBarthel indexスコアに基づく日常生活動作(ADL)の低下は肝細胞癌の予後と関連する
Clinical frailty scaleに基づくフレイルは高齢者における肝切除後の重篤な合併症と関連する
サルコペニアは大量肝切除における術後合併症のリスク因子である
術前のCRP/Alb比(CAR)高値は大腸癌肝転移切除後の術後合併症と関連する
肝切除後胆汁漏の危険因子は、術式「中央2区域切除」、「左3区域切除」、「前区域切除」である
ICGとアシアロ肝シンチグラフィーを用いた肝機能ランク分類は肝切除後の合併症、在院死亡率と関連する
機能的肝切除率に基づいた肝切除リスク評価の有用性
肝切除率に基づいた肝切除後の肝不全予測因子
肝切除率に関わらず時間がかからない手術を行うことが重要である
Hanging maneuverを用いたAnterior approachは、右肝切除における術中出血およびRBC輸血率を低減させる
肝切除後胸水貯留に対する予防的胸腔ドレーンの有用性
肝切除後MRS腹水感染は手術関連死亡のリスク因子である
生体肝移植後Graftの門脈overflowに対して部分的脾動脈塞栓術でレスキューできた1例

▶膵臓
前減黄による胆道感染に着目した膵頭十二指腸切除後の術後合併症予測
膵頭十二指腸切除術中の胆汁培養検査は周術期抗菌薬の選択に有用である
尾側膵切除における膵実質損傷のない膵切離:膵液瘻ゼロを目指した「生体吸収膵臓クリップ」の開発
膵切除術後遅発性出血のリスク因子および予後規定因子を明らかにする
膵頭十二指腸切除術後の出血に対し経動脈的ステント留置にて止血を得た一例
膵空腸吻合後の難治性消化管出血へのアプローチ

▶合併症対策と予後


消化器外科手術 合併症0を目指して

A4判 並製/226頁
定価 4400円(本体4,000円)
ISBN 978-4-86656-140-0
C3047
2023年4月発行

キーワード:
カテゴリー: 医学・理工