プロレタリア文学運動と黒島伝治

ファシズムと軍歌の音が高まる1920年代。シベリア出兵の実体験に裏付けられたリアリズムで農民の生活や軍隊の本質を生々しく描き、反戦文学に画期をもたらした黒島伝治。プロレタリア文学運動の変遷を辿りながら、今日、改めて彼の作品を検証する。『文学運動と黒島伝治』を改題。

この痛ましいできごとが提起しているのは農民の貧しさであり、当時の農村の縮図である。新しい独楽を買ってやるどころか、緒を一緒に買う二銭の金さえおしまねばならない母親。二銭をおしんだために起こる息子の圧死という悲劇。また角力見物にも行かせることのできない農民の貧しさ。これが少しのりきみもなく淡々と描かれる。
ここには作者の世の中にたいする怒りや叫びもないし、理屈めいたことも書かれてはいない。ただ事実だけが描かれる。それだけになおさら、貧しさが人の命さえ奪うことへの憤りと、貧しさ故に幼い命を落とさなければならなかった藤二への切なる気持ちとが伝わってくる。無言の告発というべきであろう。(「農民小説二編」より)
著者略歴
山口 守圀
ヤマグチ・モリクニ
1932年生まれ。1953年、同人誌『文学世代』同人。1970年、同人誌『渦流』同人。日本民主主義文学会会員。著書「文学に見る反戦と抵抗 私のプロレタリア作品案内」(2001年)、「文学運動と黒島伝治」(2004年)、「短編小説の魅力」(2005年、いずれも海鳥社)
目次

1章 「軍隊日記」
2章 シベリア出兵と黒島伝治
3章 反戦小説へ
4章 プロレタリア文学運動の幕開きから展開へ
5章 農民小説二編
6章 青野季吉の「目的意識論」とその前後
7章 「シベリア物」の佳作
8章 「プロ芸」「労芸」そして「前芸」
9章 「シベリア物」の名作と「穴」
10章 蔵原惟人の統一戦線提唱から「ナップ」へ
11章 「氾濫」と再び「シベリア物」
12章 長編「武装せる市街」へ
13章 「労芸」の分裂から文戦打倒同盟へ
14章 弾圧の嵐の中で
15章 「血縁」執筆からその死まで
あとがき


プロレタリア文学運動と黒島伝治

A5判 並製/280頁
定価 2200円(本体2,000円)
ISBN 978-4-87415-877-7
C0095
2013年2月発行

キーワード:
カテゴリー: 文学・記録