幸せを届けに
五輪ランナー・小鴨由水 もう一つのゴール著者 光本 宜史
1992年、日本の陸上界に彗星のごとく現れ、そして去っていったシンデレラガール。小鴨は女子マラソンにおける〝記録より記憶に残る〟選手であった。五輪出場から30年近く経とうとしている今も、雑誌やテレビ番組などで「あの人はいま」という類の企画で取り上げられることも少なくない。ただ、「いま」に至るまでの経緯は、ほとんど紹介されることはない。現役時代の栄光と挫折だけでなく、表舞台から去った後の紆余曲折を知るにつれ、なぜ笑顔で当時を振り返ることができるのか、その疑問が大きくなっていった。
改めて取材を申し込んだのは2018年2月のことだった。それから1年近く話を聞いていく中で、小鴨が呟いた一言は、十分に納得できるものだった。
「いまが幸せなら、その時に辛く、悲しいことだったとしても、良き思い出として語れる。だからいまを一生懸命に生きることが大切なんじゃないですかね」
小鴨はいま、毎日が楽しいと言う。幸せだと言う。苦しみを乗り越え、その境地に至るまでの道のりを追った。
(本書「はじめに」より) 著者略歴
- 光本 宜史
ミツモト・タカフミ - 1972年5月13日生まれ。北九州市出身。西南学院大学法学部卒業、地域経済誌、広告マーケティング専門誌を経て2014年、編集者・ライターとして独立。福岡を中心に地域経済、アマチュアスポーツなどの分野で執筆を行う。