ことばを超える
中村京亮の素描―失語症の世界から著者 菅 正明
言葉のない世界を生きる。脳溢血で言葉と失った医師が、リハビリのなかで描いた作品群を読み解く。病への抵抗、病の認識、そして、居間の自分を表現する。「先生が亡くなってから二十数年が経って、私もちょうど先生が発病されたのとおなじ年齢になった。いま改めて先生が残した絵を眺めてみると、また別の感慨が浮かぶ。私が先生の絵を「早く治りたい。早く帰りたい」という心の叫びだと思ったのは、当時の私の読み方が未熟で、先生の深い心を読み取る力がなかったからである。先生はあのとき、半身不随になり言葉を失って、一時は絶望のどん底に落ちたかもしれないけれども、それを契機として自分の人生を感得したのだ。言葉もない、体の自由もない、病室でひとり天井を眺めながら、改めてそこに自分の人生を見出した。先生はあのとき、すべてを捨てたのだ。捨てたというのが悪ければ、すべてから自由になったといってもよいかもしれない。」(本書より)
著者略歴- 菅 正明
スガ・マサアキ - 1926年、福岡県若松市(現・北九州市若松区)に生まれる。1949年、医師国家試験合格。1950年、医師登録。現在、医療法人親和会 介護老人保険施設「しんわ苑」勤務。