リアルの行方

東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故は、それ以前にはもう戻れないというほどの衝撃を多くの人に与えた。被災者にとっては言うまでもないが、それ以外の国民もこの衝撃を逃れることはできない。そういわれた。「日本社会と文化をめぐる言説は、震災前と震災後の間で大きな楔を打ち込まれてしまった(東浩紀)」。だが、3・11の何がかくも広範で深い衝撃を与えたのか。改めて問いただしてみれば、理由はばらけてしまうだろう。あれから三年、直接の被害者を除いて、事件の衝撃が風化していくとはこのことに関係しているはずである。
思うに3・11の衝撃とは「何が本当のリアルなのか」と、改めて人びとに問いかけたことではあるまいか。思いがけないことに、これは今日答えの易しい問いではない。そのえもいわれぬ難しさが、事件の風化に関係しているに違いない。私はここで、ひとつの思想的情勢分析として、東日本大震災の衝迫を受けた「リアル」の行方を訊ねてみたい。(本書「リアルの行方」より)
著者略歴
長崎 浩
ナガサキ・ヒロシ
1937年生まれ。東京大学理学部卒業。東京大学物性研究所、東北大学医学部、東京都老人総合研究所、東北文化学園大学に勤務。現在は政治思想・科学技術・身体運動論を論じる。1960年代末、全共闘運動高揚期に『叛乱論』にて登場。以後、80年代にいたるまで、政治思想状況にコミットしつづけた。90年代以降は、環境問題やリハビリテーションの分野でも著作活動を続ける。
目次

はじめに

リアルの行方
情勢分析 この四半世紀の世界
いま、私であるということ
地球の影のもとに 環境主義の倫理と技術

新しい物語を作る 東日本大震災と科学技術
パラダイムの内と外
戦後科学技術放浪

日本における労働者階級の状態
党派的であること
マルチチュードの叛乱論 ネグリ/ハート『コモンウェルス』『叛逆』を読む

【付録1】市田良彦『存在論的政治 反乱・主体化・階級闘争』
【付録2】廣瀬純『アントニオ・ネグリ 革命の哲学』
初出一覧


リアルの行方

A5判 上製/282頁
定価 2860円(本体2,600円)
ISBN 978-4-87415-905-7
C0036
2014年4月発行

キーワード:
カテゴリー: 社会