キジバトの記 新装版

私が生き延びてこられたのは、どんなときにも彼の仕事に対する信頼と敬意が薄れなかったことと、いつの間にか私が複眼を備えて、ものごとを多層的に見るすべを身につけたためではないかと思う。そうなれば自分をもありのままに観察することができる。私の自発性が次第に萎縮し衰弱してゆく姿もよく見えた。私が時として無分別な衝動に駆られなくなったのは五十歳を過ぎてからである。 笑止なのは私の精神の纏足状態とも言える「女らしさ」にたいして、男性の多くが快い印象を抱くらしいことであった。私はその反応を尺度にしてひそかに彼等を測った(本書「二月」より)
著者略歴
上野 晴子
ウエノ・ハルコ
1926年、福岡県久留米市に生まれる。畑威・トモの6人の子の長女。高等女学校の一時期を東京で過ごすが、成人までのほとんどは福岡で暮らす。1956年、上野英信と結婚。同年、息子・朱を出産。1964年、福岡県鞍手郡新延に移り、夫とともに筑豊文庫を開設。1997年に死去、享年70歳
目次

いまにして
『追われゆく坑夫たち』の頃
鳥を恋う
筑豊を写した人
英信の流儀
裏切り
砦の闇のさらなる闇 川原一之
騾馬の蹄 上野朱
新装版に寄せて 上野朱
(一部抜粋)


キジバトの記 新装版

四六判 上製/208頁
定価 1870円(本体1,700円)
ISBN 978-4-87415-860-9
C0095
2012年9月発行

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カテゴリー: 文学・記録