眉屋私記

上野は、「事実は小説よりも奇なり、というが、あまりにも話ができすぎているので、私が作り話を書いているのでは、と思われないか心配だ」と話していた。また「一メートルでもよい、想像の羽を伸ばしたいと思うのだが、やっぱり事実にはかなわない」とも語っていた。……
移民と辻売りという近代沖縄の底辺を貫く二つのテーマによって、そこに息づく民衆の姿を映しだしたのである。初版が刊行されて後、多くの評者が「沖縄の近代史に初めて路地裏のアンマーたちが登場した」と評したのもこのためであった。それも顔の見えない「へのへのもへ」の民衆像ではなく、名前を持ったひとりひとりの人間をとおして描き出された。眉屋一族の歴史は、近代の沖縄民衆の体験であり、歴史であった。
本書の表題の『眉屋私記』は、上野の謙遜に出た表記と、眉屋一族の私記という二重の意味が込められているかと思うが、私は眉屋一族を通して沖縄民衆の歴史を記録したという意味で『眉屋史記』と受け止めている。ちなみに本書が地域の人たちに共感・共有された事例として、本書が高等学校の教師によって自主教材化され、授業で取り上げられたこと、いま一つは、本書がきっかけとなって、屋部字誌の編集事業が行われたこと、さらに沖縄タイムス社の出版文化賞を受賞したことをあげておきたい。(本書「解題」三木 健氏執筆より)
著者略歴
上野 英信
ウエノ・エイシン
1923年、山口県に生まれる京都大学支那文学科を中退して炭坑に入り、1957年まで海老津炭鉱、高松炭鉱、崎戸炭鉱などに鉱夫として働く。そのころより炭鉱労働者の文学運動を組織するとともに、炭鉱についてのルポルタージュを書く。1964年に「筑豊文庫」を創設。1987年没。
目次

序章 吉例吉の渡波屋
第一章 出関
第二章 砂の牢
第三章 銭の鎖
第四章 ダーメ・ルス
第五章 悲しき外人兵
第六章 浮き世灘
第七章 黄白人種宣言
第八章 皇紀二千六百年
第九章 鶴屋炎上
第十章 波も音立てな
あとがき

解題 炭鉱移民と辻売りで紡ぐ民衆史 三木健 


眉屋私記

四六判 上製/546頁
定価 4860円(本体4,500円)
ISBN 978-4-87415-924-8
C0095
2014年10月発行

キーワード:
カテゴリー: 文学・記録
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