出会いの風
松下竜一未刊行著作集第2巻。「売れない作家」の至福と哀感諭吉の里・中津に「居残って」しまった者の屈折は、環境を守ろうとする運動の中で解放され、「ビンボー暇あり」の境地へと至る。上野英信・晴子、伊藤ルイ、前田俊彦、緒形拳らとの出会いと深交。本書では“売れない作家”の至福と哀感を伝える80年代から20年間のエッセイを集録。【解説】上野朱
「ペン一本の生活を貫き通された松下さんだが、その筆が最も冴え渡り且つファンも多いのは、『草の根通信』の『ずいひつ』に代表されるような短い文章群ではないだろうか。(略)痛い、苦しい、愛しているといった個人的な思いから家庭の事情までありのままに文字にして、そのいわば無防備な姿に読者は引き込まれてしまう。(略)正と死の穏やかな繰り返しこそが、人としての最高の喜びであり、贅沢であるという思想。年収二百万円におよばないような『ビンボー』でも、人間は十分に幸せを感じることができるという、おのれの裸身をさらけ出すような「いのちき」のさまが、多くの人の心を捉えて離さない」(解説「ビンボーの系譜」より一部抜粋)
- 新木 安利
アラキ・ヤストシ 1949年、福岡県椎田町(現・築上町)に生まれる。北九州大学文学部英文学科卒業。元図書館司書。1975年から『草の根通信』の発送を手伝う。
【著書】『くじら』(私家版,1979年)、『宮沢賢治の冒険』(1995年)、『松下竜一の青春』(2005年)、『サークル村の磁場』(2011年)、『田中正造と松下竜一』(2017年)、『石原吉郎の位置』(2018年)、『石川啄木の過程』(2019年、いずれも海鳥社)
【編著書】 前田俊彦著『百姓は米を作らず田を作る』(海鳥社,2003年)、『勁き草の根 松下竜一追悼文集』、(草の根の会編・刊,2005年)『松下竜一未刊行著作集』全五巻(海鳥社,2008年~2009年)- 梶原 得三郎
カジワラ・トクサブロウ - 1937年、大分県下毛郡上津村(現・中津市本耶馬渓町)に生まれる。1956年、中津南高を卒業して、住友金属小倉製鉄所の日雇い臨時工となる。約六年後に正社員。1972年、35歳のとき、火力発電所の反対運動に立ち上がった松下竜一と出会い、以後、さまざまな市民運動をともにする。1974年、海面埋め立て阻止行動で逮捕され、37歳で失職。その後、さかな屋(18年)、私立短大学生寮管理人(18年)を経て、72歳で無職となり、現在74歳。
1諭吉の里から
2送る言葉
3少しビンボーになって競争社会から降りようよ
初出一覧
ビンボーの系譜 上野朱