石原吉郎の位置

シベリア抑留生活の中での体験を、戦後も辿り直し、追体験し、自己審問する詩人・石原吉郎。その姿勢[位置]を、隠せるだけ隠すという方針で書かれた石原の詩やエッセーを通して読み解いていく。青春の日々を苦悶する「薫君」を論じた「庄司薫の狼はこわい」他を収録。

 戦争責任よりまずは食うことが問題だった。「適応」できない者はほろびて行くという「適者生存」の原理そのままに「生きよ、墜ちよ」と、リアリズムで、「他者を凌いで生き」、逞しく厚かましく欲望をむき出しにしていた戦後社会に、相変わらずシベリアに拘って、その正反対の倫理を生き、「他者を凌いで生き」た己の「堕落」を問い詰めるということは、やはり生半可なペシミストにはできないことである。しかし、石原は詩人であり、キルケゴールのいう③絶望して自己自身であろうと欲する場合、の人間だった。石原は少年期からペシミストであった。彼の生は、そのペシミズムを徹底させ、シベリア体験を生き直すことに費やされた。石原には悩む力と勇気があった。それが石原の[位置]であり姿勢である。彼は、生活・日常の側に残しておくはずの片足をも人生の側におき、両足をペシミズムの中に浸していく。日常・社会・政治から切れようとしている。石原が告発しないというのはそういう[位置]のことなのである。(本書「石原吉郎の位置」より))
著者略歴
新木 安利
アラキ・ヤストシ

1949年、福岡県椎田町(現・築上町)に生まれる。北九州大学文学部英文学科卒業。元図書館司書。1975年から『草の根通信』の発送を手伝う。
【著書】『くじら』(私家版,1979年)、『宮沢賢治の冒険』(1995年)、『松下竜一の青春』(2005年)、『サークル村の磁場』(2011年)、『田中正造と松下竜一』(2017年)、『石原吉郎の位置』(2018年)、『石川啄木の過程』(2019年、いずれも海鳥社)
【編著書】 前田俊彦著『百姓は米を作らず田を作る』(海鳥社,2003年)、『勁き草の根 松下竜一追悼文集』、(草の根の会編・刊,2005年)『松下竜一未刊行著作集』全五巻(海鳥社,2008年~2009年)


石原吉郎の位置

四六判 並製/250頁
定価 1980円(本体1,800円)
ISBN 978-4-86656-041-0
C0095
2018年12月発行

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カテゴリー: 文学・記録